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ナポリ・宮廷と美  カポディモンテ美術館展  ルネサンスからバロックまで 渡辺晋輔

 「ナポリを見て死ね」この有名な言葉が物語るように、ヴェスビオ山の麓に位置し、美しい海岸線を持つナポリは、一年を通じて温和な気候でもあり、古来風光明媚な町として有名でした。一方、ピザをはじめ各種料理によっても知られるように、きわめて豊かな土地でもあります。さらに地中海貿易においてきわめて重要な位置にあるこの町は、南イタリアの政治・経済の中心を占めるようになります。そして、スペイン、オーストリアなど、ヨーロッパの強国の手を変遷してきたことで、国際性の強い町として発展しました。

 ナポリを見下ろす丘の上に建つカポディモンテ美術館(「カポディモンテ」とは「山の上」の意味)は、ナポリを象徴する美術館であると同時に、イタリア有数の美術館のひとつとして、大変著名です。1738年にブルボン家のカルロ7世(後のスペイン王カルロス3世)によって建造が開始された宮殿が、そのまま美術館となっています。そもそもこの宮殿は、カルロが受け継いだファルネーゼ・コレクションを収納・展示することを目的のひとつとして建てられたものでした。美術品が展示されるようになると、ナポリを訪れる文化人たちは競ってここを訪れるようになります。その中にはドイツの文豪ゲーテ、美術史家ヴィンケルマン、フランスの画家フラゴナールら、名だたる知識人、画家たちがいました。その後さまざまな変遷をたどった後、国立美術館として一般に公開され、所蔵品を充実させて現在に至ります。本展はこのカポディモンテ美術館の名品80点によって、ルネサンスからバロックまでのイタリア美術を概観します。展示される作品は主に、ファルネーゼ家が収集したルネサンスおよびバロック美術の作品と、ブルボン家が収集したナポリ・バロック美術の作品です。これらは、美術館を代表する名品の数々であると同時に、ナポリそしてイタリアの歴史を物語ってくれる品々でもあります。

 ルネサンスからバロックまでのイタリアを代表する貴族のひとつファルネーゼ家は、過去の作品を蒐集すると同時に、同時代の芸術家にも積極的に作品を注文し、この時代の美術の牽引役としての役割を果たしました。ミケランジェロやティツィアーノ、エル・グレコといった当時の西洋を代表する芸術家たちが、ファルネーゼ家と密接な関係を保っていたことが知られています。また、ファルネーゼ家が庇護したカラッチ一族とその一派は、バロックのローマ画壇を代表する存在となりました。権勢を誇ったファルネーゼ家ですが、それから一世紀以上が過ぎると、直系の子孫が途絶え、その結果コレクションは、エリザベッタ・ファルネーゼから息子であるブルボン家のカルロのものとなります。そしてカルロのナポリ王(カルロ7世)登位とともに、ファルネーゼ・コレクションはナポリへともたらされたのです。これがカポディモンテ宮殿建設のきっかけになったことは上記の通りです。

 さて時代は戻りますが、カラッチ一族がファルネーゼ家のために仕事をしていた頃、ナポリでは、殺人の罪を犯してローマから逃亡してきたカラヴァッジョにより、新たな美術が伝えられました。ナポリの画家たちはカラヴァッジョに倣いつつもローマの最先端の画法を吸収し、ナポリをイタリアの美術の中心地のひとつとします。スペイン出身ながら死ぬまでナポリで活動し、この地の美術を牛耳ったフセペ・デ・リベーラ。画家の娘として生まれ、ローマなどで活動した後ナポリに落ち着き、本格的な歴史画を描いた最初の女流画家となったアルテミジア・ジェンティレスキ。「早描きのルカ」とあだ名され、イタリアはもとよりスペインにまで赴き、膨大な作品を描いたルカ・ジョルダーノ。その他多くの優秀な画家たちによって、それまでは一地方様式に過ぎなかったナポリの絵画は、国際的に影響力を持つ存在へと発展するのです。後にナポリを統治したブルボン家は、この地の美術を積極的に蒐集し、それらが巡り巡って、カポディモンテ美術館に伝えられることとなりました。

 このように、カポディモンテ美術館そしてその所蔵品は、ナポリの町さらにはイタリア全体の歴史の変遷をくぐり抜け、現在に伝えられてきたものです。

 本展は、こうした美術品が本来どのように置かれていたのか、ということも垣間見える構成となっています。たとえば、ファルネーゼの収集した数々の工芸品からは、美術品に囲まれた当時の大貴族の生活が髣髴とされます。ナポリの宮殿を彩った作品の数々を、この機会にご鑑賞ください。

 

(わたなべしんすけ・国立西洋美術館主任研究員)

 


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