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福神漬をちょっと 橘家圓蔵

明治の彫塑 ラグーザと荻原碌山
写真/須賀 一

 うちの師匠七代目圓蔵が酒悦が大好きでね。それで福神漬を買って食べてみたら、これが旨い。50年以上も前のことだ。私は先代がまだ円鏡時代の昭和27年に弟子入したんだが、前座名の竹蔵も名乗ってなかった時期だもの。

 この店は江戸からでしょう。谷中店長に訊いたら、創業は1675年で関ヶ原の戦いから75年たった頃。名物の福神漬は明治時代に十五代目の考案で、漬け物に醤油を使うのは当時は画期的だってね。原料に7種類の野菜を使い、不忍弁財天にも近いから七福神にちなんで福神漬とは、うまく名付けた。お隣の鈴本演芸場が安政の開業でしょ。上野だぁ、江戸が二軒並んでいる。

 そとでカレーを食べて、そこに酒悦の福神漬が付いていると、これだったらいくら取られてもいいなって思う。添え物の薬味にそれだけの気配りをしてんだもの。カレーは推して知るべし。それだけ値打ちがある。色んなものを売ってるけど、ここんちのは全部好き。東京の人の味なんだなぁ。濃いようでそうでもなく、甘辛、と一言でもいえない。しつこくない。私達の舌にあうんだね。

 落語家になるんなら酒悦の福神漬のようになれって言いたい。誰が食べても美味しい、誰が聞いてもうまいって思われなきゃ。古典にしろ新作にしろ個性を磨いて独自の噺を創る、それでいて飽きられない普遍的な味を出さなくちゃ。

 今日もお店はお客さんが多いね。ここのしそ巻きはカミさんの大好物。たくさん買って人様にも差し上げているみたい。

 お中元やお歳暮でも使わせてもらっている。年始にもいい。贈り物は自分の好きなものを送らないと駄目。自分が好きなんだもの、あそこに持って行っても、よろこばれるって思うよね。福神漬の樽を一個ちょっと持っていく。ちょっとにちょうどいい量だろ。贈り物は贈り主の人柄が出るからね。あの人がこんなものを持って来たよ、粋だね、ってことになる。魚釣りでは、フナに始まってフナで終わる、なんて言うけれど、漬け物なら、酒悦に始まって酒悦に終わる、かな。温かいご飯にあう。

 上野といえば桜の名所だ。落語のご存知「長屋の花見」では、大根の蒲鉾と沢庵の玉子焼きを肴に番茶の酒で一杯やるんだけど、沢庵だって大根で、漬け方しだいで黄色くなるんだからおもしろい。茄子、胡瓜、茗荷、色とりどりの香の物はきれいだ。

 うちのカミさんがささっとこさえてくれるのは、大根の浅漬けを千切りにしてかたく絞って皿にちょこんと盛って生姜をちょっとのせ、.油をちょっと滴たらすの。うまいね。

 好物は、と聞かれると、美味しいものとこたえる。答にならないかもしれないが。でもね、美味しいっていうのは、その時の口にあった、食べたいもので、それが一番美味しい。生身の人間だもの、体調もあるし、同じようなものが続いたら替えてみたいし。そんな時でも漬け物は飽きないね。 

 (たちばなや えんぞう・落語家)

<酒悦>
電話:5688・5051

 


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