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動物園は人の思いの展示場?

土居利光

園長とアジアゾウ

園長とアジアゾウ

8月1日から恩賜上野動物園長となりました。多摩動物公園長として6年半を過ごし、その前は、今年6月に世界自然遺産の登録が決まった小笠原諸島の自然保護の仕事などを東京都環境局でしていました。こうした経験をここで活かせればと思っています。

上野動物園に来て感じるのは、来年に130歳を迎えることとなった歴史であり、地域との結び付きの強さです。この年月と地元を始めとした人々の共感が、日本を代表する動物園を作り上げてきました。しかし、動物の種類や餌の内容、動物が暮らす建物や運動する場のデザインなどの中身は大きく変ってきているのです。

特に近年では、自然の中に暮らしている動物を安易に動物園に連れてくることはしなくなりました。1980年に日本での効力が発生した「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」では、多くの動物が学術研究目的以外は輸出入できないことが決められました。条約に沿って、海外などの動物園との貸し借りなどによりながら、動物は日本の動物園に来るのですが、そこが動物を飼育する場所として適当であるかどうかなども判断されることになっています。

これは、「動物の福祉」について大きな関心が寄せられるようになってきたことが背景にあります。「動物の福祉」とは、動物の個体が幸せであると主観的に感じる状態であるとされますが、「苦痛がなく、選好が満たされていること」、「個体としての身体諸機能が十分に働くこと」、「その種に本来備わっている能力や行動などが実現されること」など、いくつかの捉え方がされています。

これまでも動物園では動物の健康管理から始まって、環境エンリッチメントなど様々な試みを行っていますが、これからは、動物の誕生から死に至るまで責任があることを再認識し、動物の福祉を増進するために何をしていくべきかを考え続けなければならない立場がより強くなってきました。上野動物園は、「動物の福祉」を考え実行する場として、来園者が動物を楽しく知る場として、これからも日本の動物園の先頭をきって歩んでいく必要があると思っています。

来園者の方々が楽しく過ごすためには、動物たちの生活が苦しいものであってはなりません。動物園は人間を含めた生き物たちのオアシスであるべきなのではないでしょうか。上野動物園には都市の中では貴重な水環境としての不忍池があり、そして緑も多く残っています。こうした環境を活かして鳥などの動物たちの生活を体感してもらうこと、飼育している多くの動物たちを通して動物とその生息地について知ってもらうこと、これまでに築いてきた生物多様性の保全などの取組みを前進させることなど、都市生態系の中にあって自然環境を共感できる場所としての役割を十分に発揮させていくことにも力を注いでいきたいと思います。

左:アザラシ 右:ホッキョクグマ(ユキオ)1987年生
左:アザラシ 右:ホッキョクグマ(ユキオ)1987年生

10月28日から「ホッキョクグマとアザラシの海」と名付けた施設を公開することとしました。2009年から2年余りをかけて整備してきたもので、その名の通りホッキョクグマやアザラシのほか、アシカ、シマフクロウ、スバールバルライチョウなどを観察できる施設です。ここの見所は、動物たちを様々な角度から見ることができる工夫でしょうか。屋外の運動場やプールでの姿はもちろんですが、運が良ければアザラシやアシカがガラスの床下を潜る様子や頭上のアーチ型の水槽を渡る場面、また、水中でアザラシとホッキョクグマが重なって見えるようになっています。そのほか、頭上を歩くホッキョクグマが見える天窓や野外運動場の様子が分かるモニターなども設置しました。

こうした楽しく見るための工夫とともに、この施設には隠れた特徴があります。それは海外で定められた基準に則って作られたということです。展示場所や部屋、プールの大きさ、照明など様々な規定がありますが、ホッキョクグマが観客からの視線を避けることができること、快適な温度の場所に行きたい時にいけること、なども示されています。つまり、来園者からすると動物が見えないことがある訳ですが、隠れ場や暑さ対策のミスト噴霧機を設置するなど「動物の福祉」に配慮しているのです。この基準に基づいた施設としては日本で最初となりました。

動物園は動物が見ることができる場に違いはありませんが、実は動物に対する人間の考え方を展示している場でもあるのです。動物の展示の方法、動物舎の建て方、餌のやり方など、どれをとっても人間が考え行っていますが、その背後には動物への人間の立ち位置が見え隠れしています。動物園に来たら、自分自身の立ち位置を考えてもいいかもしれません。夏の暑さが去り、ジャイアントパンダも野外で活発に動く季節となりました。いろいろな視点から動物園をお楽しみ下さい。

(どいとしみつ・恩賜上野動物園長)

 


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