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だまし、だまされ

坂田修一

手話 頑張のポーズ

エダハヘラオヤモリの全身

 メディアに登場する両生爬虫類はいつも捕食者としての一面ばかりがクローズアップされてしまいます。彼らを不気味で得体の知れないものと感じている人にとって、冷酷な捕食者というイメージはしっくりくるのかもしれません。

 しかし実際には、食べることもあれば食べられることもある食物連鎖のメンバーで、他の動物と特段違うものではありません。たとえば、ヘビが鳥を襲って食べるのはよく知られている事ですが、鳥がヘビを襲って食べる事も珍しくはないのです。どちらも、ちょうど良い大きさのものを餌にしているだけで、鳥も自分より小さなヘビであれば当然のように食べています。

 上野動物園・両生爬虫類館で開催中の特設展『両生爬虫類鑑「まもる」』は、あまり注目されない、食べられる側としての両生爬虫類にスポットを当てています。完全に蓋ができる甲に身を隠すハコガメ、有毒であることを派手な色でアピールするカエル、有毒なフリをして捕食者を欺くヘビやサンショウウオなど、厳しい野生の中で生き残るための工夫は多様で、実に巧妙です。とにかく捕食者に見つからないようにという戦略をとるものもいます。その代表がヘラオヤモリのなかまです。

 ヘラオヤモリはその名の通りヘラのように平たい尾を持つヤモリのなかまで、マダガスカルだけに12種ほどが分布し、どの種も周囲の環境に姿を似せることで身を隠して生きています。体表が樹皮のようにボコボコとした質感をしているヤマビタイヘラオヤモリは、幹に頭を下に向けてぴったりとくっついていると、すぐ近くにいてもなかなか気づかないほど環境にとけ込んでしまいます。前肢は体の下に、後肢は尾の下に隠してしまうのでシルエットはヤモリのものではありません。一方、幹ではなく枯れ葉に紛れて身をもまるのがエダハヘラオヤモリです。指先に乗ってしまうほどの、この小さなヤモリの隠れ身は見事としか言いようがありません。体の色や模様にはバリエーションがあって、明るい茶色、黒に近い焦げ茶、カビのような模様が入っているもの、所々に苔が生えたように緑色の斑模様が入っているものまで、さまざまです。実は、このように個体差があることも、捕食者に対する戦略だと考えられています。すべてが同じ姿をしているのに比べて、探すときのイメージが持ちにくいからです。街に出れば必ず目に付く非常口のサインが統一されているのは、あの緑と白のカラーリングがそれであることを常に学習させて、瞬時に見つけられるようにする効果があるのでしょう。エダハヘラオヤモリの体色のバリエーションはこれと逆の効果を狙っているようです。

自切した尾
自切した尾

 さらに、なんと言ってもこのヤモリを特徴づけているのは、枯れ葉にしか見えない「尾」です。中心には葉脈のようなすじが入っているものも多く、個体によっては虫食い状の切れ込みまで入っています。いかにも触ればボロボロと砕けてしまいそうな見た目ですが、実際はぐにゃっと弾力があり、そこは普通のヤモリと同じです。

 ある日、エダハヘラオヤモリの飼育ケースの掃除をしていると、一枚の枯れ葉が落ちていました。飲み水の交換をして、最後に拾おうとする瞬間まで、それが一頭のヤモリの尾であることに気づかなかったのです。このヤモリも日本に住むものと同じで、危険が迫ると自分で尾を切り落とすことがあります。飼育下なので外敵に襲われることはありませんが、夜間になにか驚くことがあったのかもしれません。尾はいずれ再生するはずですが、なかなか元通りの姿にはなりません。せっかくの見事な尾がなくなってしまったことはショックですが、それ以上に尾の精巧さに改めて感心しました。毎日見ていても騙されてしまうなんて・・・。

 ヘラオヤモリ、コノハガエル、コケガエル。擬態を紹介している特設展内のコーナーは、真剣に動物を探す来園者の方でにぎわっています。ようやく見つけた瞬間の「えー!」という驚きの声を聞くたびに、自分がされたイタズラを誰かに試したような気持ちになって、ついニヤっとしてしまいます。

(さかた しゅういち・上野動物園飼育展示課)

 


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