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このところ中国に対するイメージがあまり芳しくないようですが、それはとても残念なことです。現実に起こっている諸々の障害に目をつむるつもりは毛頭ありませんが、数千年の昔から続く日中の交流の歴史を振り返れば、そこには、衝突などより、はるかに有益で実りある行き来があったからです。とくに文化の分野に目を向けてみると、日本は中国から実に多くのことを学び、また、日本からも、少なからざる益を彼の国へもたらしてきたはずです。そして、いまなお中国の長大な歴史の中には、私たちが充分には認知していない、奥深く、刺激に満ちた世界が広がっているのです。
殷〜西周時代・前12〜前10世紀四川省成都市金沙遺跡出土成都金沙遺址博物館蔵](book-img/book201210-2-1.jpg)
金製仮面
[一級文物](金製)殷〜西周時代・前12〜前10世紀
四川省成都市金沙遺跡出土成都金沙遺址博物館蔵
今年は、日中の国交が正常化してから四十周年という節目にあたります。それを記念し、今後の日中関係のあり方を探り、新たな交流の道を切り開く一助になればという願いを込めて、十月十日から、東京国立博物館において、特別展「中国王朝の至宝」を開催します。
中国で最古の王朝が誕生したのは、いまから四千年も以前のことです。それだけ長い年月にわたって展開してきた中国における王朝の歩みは、とてつもなく豊饒で多様な文化を形成してきました。今回の展覧会は、中国歴代の王朝の中から十余りの代表的な王朝を取り上げ、その個性あふれる文物を対比しながら展示することにより、これまで見過ごされがちであった中国文化の多彩な側面に光を当て、その特質や魅力を改めて紐解いていこうとするものです。
展覧会の内容は、およそ時代を追いながら、ほぼ重なる時代の王朝ないしその中心地域を組にして取り上げ、それを六章に分けて構成しています。
第一章は、「王朝の曙」と題し、中国で最初期の王朝に焦点を当ててみます。四川地域の古代蜀(こだいしょく)と、中原地域の夏(か)・殷(いん)です。二つの地域の諸王朝では、驚くべき造形をもつ金製品や、強靱な精神世界を具現した青銅器・玉器といった文物が多数制作されました。それらを間近に対比することにより、異なる勢力が並存していた初期王朝期の多元的な中国文化の実態を照らし出します。
第二章は、「群雄の輝き」。長江中流域に強大な国を築いた楚(そ)と、山東地域の強国として名をはせた斉(せい)
・魯(ろ)という、春秋戦国時代に栄えた国々の文化を比較します。不思議な姿や図像を備えた漆製の品々や、高度に洗練された様式を示す青銅器や宝玉器など、これらの地域に典型的で優れた出来映えを見せる文物を選りすぐりながら、豊穣な古代中国文化の諸相を浮き彫りにします。
第三章は、「初めての統一王朝」です。中国史上初めて全土を統一した秦(しん)王朝と、その後、四百年に渡って天下を支配した漢王朝を対比します。始皇帝という絶大な権力によって成立した秦王朝の類まれな破格の文物と、長期に渡って全国を安定的に統治した漢王朝の古典的な様式美が結実した美麗な文物を対照し、統一王朝下で展開した新たな中国文化の特色を俯瞰します。
第四章は、「南北の拮抗」と題しています。北方民族の北魏などが華北に建てた王朝と、江南を拠点とした漢民族王朝の文化を比較します。平城(山西省大同市)と建康(けんこう)(江蘇(こうそ)省南京市)という、この時代の都として文化の中核を担った地域の文物に焦点を当て、南北相互の交流も視野に入れつつ、動乱期の南北でそれぞれの道を歩んだ中国文化変遷の様相を追ってみます。
第五章は、「世界帝国の出現」として、日本ともなじみ深い唐王朝を取り上げます。とくに、唐の二つの都、つまり長安(陝西(せんせい)省西安市)と洛陽(河南省洛陽市)は、ともに殷賑をきわめ、多種多様な文物を生み出しました。これらの二つの都の文物を対照しながら、国際性と進取の気風に富み、また、明るい色彩感と華やぎに満ちた唐文化の特質と中国史上における意義を探ります
第六章は、「近世の胎動」。中国北部で遊牧民族の契丹(きったん)族が建てた遼(りょう)王朝と、漢民族の系譜に連なる宋(そう)王朝の文物を対比してみます。民族性がにじみ出た遼の文化と、漢文化を著しく深化させて中国文化の一つの頂点を現出した宋の文化から、それぞれを代表する優品を集め、近世の胎動期ともいえるこの時代の文化の多彩な側面と奥深さを眺めてみます。
聞きなれない王朝の名前も多々あるかもしれませんが、それだけさまざまな局面で多様な姿を示すのが中国文化です。この機会に、その精髄を、ぜひ直接確かめてみてください。
(まつもとのぶゆき・東京国立博物館学芸企画部長) |