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フランソワ・ポンポン <シロクマ> 1923年頃
Purchase, Edward C. Moore Jr. Gift, 1930 (30.123ab) Image (c)The Metropolitan Museum of Art
このたび、東京都美術館のリニューアルオープンを記念し「メトロポリタン美術館展大地、海、空||4000年の美への旅」を開催いたします。
ニューヨークの緑豊かなセントラルパークに建つメトロポリタン美術館は、1870年の創設以来、「メット」の愛称で世界中の人々に親しまれています。所蔵品は17もの学芸部門にわたり約200万点、年間来場者数50 0万人超、敷地20万平米と、名実ともに世界最大級のスケールを誇ります。
本展は、そのメットとの共催により実現するもので、12の学芸部門から選り抜かれた、全133点の珠玉の美術品によって構成されます。
展覧会のテーマは「自然」です。自然は、私たちをとりまく宇宙であり、いにしえより洋の東西を問わず、人間の創造活動を支えてきた根源的なモチーフのひとつです。「3・11」によって、日本人の自然観は大きく変わったといわれます。それまで目にしたことのない黒々とした海の様相は、うかがい知れぬ力を秘めた自然の脅威の形象そのものでありました。そして、あの大津波にさえ耐え残った、岩手県陸前高田市の「奇跡の一本松」の光景は、自然の両義性をまさに象徴するようなものだったように思われます。
本展は、人類最古の文明といわれる、古代メソポタミア(現在のイラク)で作られたカエル形の石の分銅から20世紀の風景写真まで、西洋美術を中心に、自然表現の多様性を見ていくものです。ある時は人間に恵みと癒しをもたらし、またある時は脅威ともなる、巨大な存在モチーフに対し、つくり手がいかに固有の文化や精神性を反映させながら、造形的なアプローチを試みてきたかが、鮮やかに示されることでしょう。

杉本博司<ボーデン湖、ウットヴィル>1993年
The Horace W. Goldsmith Foundation Fund, through Joyce
and Robert Menschel, 1994 (1994.144.8) Image
(c)The Metropolitan Museum of Art Copyrights
(c)Hiroshi Sugimoto/Courtesy of Gallery Koyanagi
本展はサブタイトルにあるように、4000年の時間軸に沿いつつ、全7章立てにより構成されます。
第1章のテーマは、「理想化された自然」です。17世紀のクロード・ロランによる日の出(1646.7年)から始まり、ドッソ・ドッシ、ニコラ・プッサン、レンブラント、トマス・コールの手による油彩画は、理想郷たる平穏な田園風景と擬人化された自然を描いたもので、それぞれの秀でた描写に、時代を彩る豊かな自然観の表れを見ることができます。
第2章は、「自然のなかの人々」です。中世の象牙細工や洗礼者聖ヨハネの生涯を描いた16世紀の写本、農民と麦穂の山に眼差しを注いだジャン=フランソワ・ミレー、水浴するタヒチの女性を描いたポール・ゴーガンなど、自然と人間との関わりに焦点をあてた作品をご覧いただきます。
第3章は、「動物たち」です。メソポタミアのリラのための牛頭の装飾や古代エジプトの猫の小像、中世のテーブルを組み立てる猿のガラス板、初期ルネサンスのライオンの頭の兜、ポンポンのシロクマ(1923年頃)等々、様々な動物の造形をお楽しみください。
第4章は、「草花と庭」です。可憐な花は、「生と美の儚さ(ヴァニタス)」を表すものであり、庭もまた、つくり手の霊感を刺激するモチーフでした。果物と花に囲まれた一角獣を表した北ネーデルラントのテーブルカーペット( 16世紀)、ルドンの油彩画、ティファニーのガラスによる花形の花器、エミール・ガレの飾り棚など、文字通り華やかな作品をご堪能ください。
第5章は、「カメラが捉えた自然」です。19世紀の写真の発明は、自然を捉える新たな表現手段を芸術家にもたらしました。その黎明期に撮影された植物と海景の貴重な写真に加え、ウジェーヌ・アジェ、アルフレッド・スティーグリッツ、エドワード・スタイケン、杉本博司らの「眼差しの妙」をご覧ください。
第6章は、「大地と空」です。ひとつのジャンルとして確立した17世紀以降の様々な風景画を、ヤーコプ・ファン・ライスダール、メインデルト・ホッベマ、ジョン・コンスタブル、ギュスターヴ・クールベ、フィンセント・ファン・ゴッホ、アンリ・ルソー、エドワード・ホッパー、ジョージア・オキーフ、バルテュスといった、西洋美術の巨匠たちの油彩画でご覧いただきます。なかでもゴッホの糸杉(1889年)は、メットが誇る画家晩年の傑作であり、本邦初公開となります。
そして、第7章は、「水の世界」です。4000年にわたる「美への旅」は、生命誕生の源となった水(海)をテーマとする本章で終わります。古代ギリシャの壷、16世紀後半のドイツの工芸品、イスラムの写本、カナレット、J.M.W.ターナー、クロード・モネ、ポール・セザンヌ、ウィリアム・ド・モーガン、モーリス・ド・ブラマンク、ウィンスロー・ホーマー等々、最終章のラインナップも本展ならではの多彩さです。
悠久の時の流れの中に点在する、人類の美の遺産というべき、綺羅星のような作品の数々は、21世紀の我々に何を語りかけてくれるでしょうか。本展が、あらためて「人と自然」との結びつきに思いを馳せていただく縁となれば幸いです。
(なかはらあつゆき・東京都美術館学芸員) |