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 エル・グレコ展のみどころ -新たな魅力に迫る-  大橋菜都子

受胎告知 1600年頃、油彩・カンヴァス、ティッセン?? ボルネミッサ美術館、マドリード (C)Museo Thyssen-Bornemisza, Madrid
受胎告知
1600年頃、油彩・カンヴァス、
ティッセン?? ボルネミッサ美術館、マドリード
(C)Museo Thyssen-Bornemisza, Madrid

エル・グレコ−本名ドメニコス・テオトコプーロス。1541年に今のギリシア領クレタ島に生まれ、1614年にトレドにおいて73歳で世を去りました。来年、没後400年の記念の年を迎えます。

エル・グレコ、と聞いてどのようなイメージが浮かぶでしょうか。先日、村上春樹訳で読み返したフィッツジェラルド『グレート・ギャツビー』で、予期せずエル・グレコの名に出会いました。物語の最後の最後、「何かしら歪められたものがあるように思えた」、そして直後で「うす気味の悪い」と形容されるアメリカ東部を述懐する場面で登場します。その主人公ニックは、その東部を幻想の中で「エル・グレコの描く夜の情景として目にする」と述べています。「歪んだ」というイメージは揺らめくような描き方からくるのでしょう。宗教画を多く描き、その絵は少し暗い印象もありますが、エル・グレコ作品で驚かされるのは、色彩の鮮やかさです。ぜひ会場でご堪能ください。

日本では1986年の国立西洋美術館での開催以降、ひさびさのエル・グレコ展となります。今回、世界中の美術館やトレドの教会群から51点のエル・グレコ作品が集います。本展は4章で構成され、第1章では肖像画家としてのエル・グレコを紹介します。モデルの正確な描写を目指した同時代の肖像画に対し、エル・グレコのそれは動き出すかのようなリアリティが特徴的です。<修道士オルテンシオ・フェリス・パラビシーノ>(ボストン美術館蔵)は、豊かな色彩と動きのある筆致、衣服のひだやモデルのしぐさなどに生命感が溢れています。目に見えないモデルの精神性まで浮き彫りにするかのような、最晩年期の傑作といえるでしょう。

第2章「クレタからイタリア、そしてスペインへ」では、各地で会得した知識と技術による、エル・グレコの表現方法と主題の変遷を比較します。会場では、ヴェネツィア滞在の初期に描かれた羊飼いの礼拝(1568−69年頃、ヴィルムスン美術館)と、スペイン時代の羊飼いの礼拝(1605年頃、コルプス・クリスティ学院総大司教美術館)をすぐ隣でご覧いただけます。エル・グレコ、と聞いてまずイメージするような「エル・グレコ」へ至る軌跡の一端に触れて頂けるのではないかと思います。

第3章ではトレドでの宗教画、そして第4章「近代芸術家エル・グレコの祭壇画:画家、建築家として」においては、祭壇画のみならずそれが収められる祭壇衝立の設計をも手掛けたエル・グレコを紹介します。祭壇画の最高傑作のひとつ、かつてトレドのオバーリェ礼拝堂を飾っていた高さ3メートルを超える祭壇画無原罪のお宿りは初来日となります。大胆な構図に加え、炎のようにゆらめく引き伸ばされた身体表現や極端な短縮法により、あたかも動き出すかのような躍動感のあるその画面にはただただ圧倒されます。とはいえ、細部も見逃せません。画面下部のトレドの町と小さく描かれた人びと、バラとユリの右手にはマリアの純潔に関わる鏡や閉ざされた庭、原罪をあらわすヘビも描かれています。

マリアを支えるかのような天使に誘われて上部へ視線を移すと、大きな筆致と震えるような繊細な表現を組み合わせて描かれた聖母マリア。白鳩の放つ光を追うと、再度視線は全体へ戻ります。画家が巧みに仕掛けた罠にはまり視線を彷徨わせていると、画中の天使やマリアが動いている感覚さえ覚えます。

今回の展覧会では、ジュニアガイドという子供向けのガイドを作成しました。宗教画という少しなじみの薄いジャンルも多いため、会場内の6作品を選定し、そのそばに作品を読み解いたボードを用意しています。たとえば、受胎告知。ジュニアガイドではこのような感じになります。「ある日、マリアのもとに大天使ガブリエルがすてきなお知らせをもってきます。「おめでとう。もうすぐ赤ちゃんが生まれますよ。その子に「イエス」という名前をつけなさい。」生まれてくる赤ちゃんは神の子イエス。マリアは、そのイエスのお母さんとなります」。このほか、ジュニアガイドには、作品のイラストとともにいくつか作品のみどころを記載しています。実物の作品が目の前にあるため、ガイドではなくより本物をじっくり見ていただけるようにしています。

ジュニアガイドの執筆にあたり一番頭を悩ませたのは、本展最大のみどころともいえる<無原罪のお宿り>でした。

早春の皇居吹上御苑
左:《羊飼いの礼拝》
1605年頃、油彩・カンヴァス、
コルプス・クリスティ学院総大司教美術館、バレンシア
(C)Museo Patriarca del Real C oleg io de C orpus C hristi de Valencia

右:《羊飼いの礼拝》
1568-69年頃、テンペラ・板、
ヴィルムスン美術館、フレズレクスン
(C)The J .F.Willumsen Museum, D enmark

聖母マリアの母アンナも、マリアを原罪を犯さすことなく処女懐妊した、というお話をあらわした作品です。さてこのお話を小学校高学年くらいを対象としてどのように説明したものか。春休みにもなりますので、ぜひお子様と一緒にガイドを片手にご鑑賞いただけましたら幸いです。

また今回のエル・グレコ展に関連して、スペインやエル・グレコの時代にゆかりのある音楽のコンサートを3月に行います。エル・グレコが手掛けた多くの祭壇画は、教会の音楽とともに視覚に訴えるものであったことでしょう。ぜひ展覧会と合わせてお楽しみいただければと思います。

(おおはしなつこ・東京都美術館学芸員)

 


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